63: 2014/07/30(水)01:03:30
『ユイちゃんは本当はできる子だもんね』カホは言う。
『『お母さん』がどうこう言わなくても、一人でなんでもできるもんね』
はい、と私は反射的に頷く。
『今度は同じことを『お母さん』から注意されちゃダメだよ』
カホが扉からはなれていくのがわかる。安堵のため息がこぼれた。
それから二ヶ月が経って、カホと父は入籍した。 式はあげなかった。私は家のことについて考えるのをやめた。
そして。
カホの異常は父にまでおよぶことになる。
65: 2014/07/30(水)01:07:48
27で仕事してるなら、一人暮らししなさいな
67: 2014/07/30(水)01:09:26
>>65
建設的なことを言うな!
66: 2014/07/30(水)01:09:03
二人が結婚してから一ヶ月。
私はカホの異常性が、父にまでおよんでいたことを知る。
このころの私はカホの言うことを、素直に聞いていた。そうすることでやりすごしていた。
この日は仕事がやすみで夜遅くに帰宅した。
『なんだカホ。俺がなにかしたのか?』
ブーツを脱ごうとしたときだった。
父の声がリビングの扉越しに聞こえてきて、私は手を止めた。
『なにを怒っているの?』
カホの声は父のそれとは対照的に淡々としていた。
『お前こそなんなんだ? 俺がなにかしたのか?』
『言ってる意味がわからないよ。お風呂入ったら、って言っただけじゃない』
そこでふたりの会話がとまる。
68: 2014/07/30(水)01:09:56
洒落怖とか目じゃない怖さ
69: 2014/07/30(水)01:13:08
父がリビングから出てきた。
父は私に気づいたが、なにも言わずに二階へあがっていった。
「おかえり、ユイちゃん」
カホがリビングから出てくる。
「なにかあの人とあったの?」
「べつになにもないよ?」
「あの人が声を荒らげてるのなんて、見たことないんだけど」
きっと疲れてるんだよ。
それだけ言うとカホはリビングに引っこんだ。
70: 2014/07/30(水)01:17:57
カホの異常さはいやでも目についた。
その日はめずらしく『家族三人』での食事だった。だけど、会話らしい会話はほとんどない。 カホが一方的にしゃべっているだけ。
以前までは父も話していた。
だけど最近は、声を聞くことさえなかった。
父が食事を終えて、リビングから出ようとしたときだった。
「お風呂に入るでしょ?」
静かな居間に、カホの声がひびく。
父は立ち止まりこそしたが、ふりかえりはしなかった。 その背中にカホはまた同じ言葉をかける。
「お風呂に入るでしょ?」
71: 2014/07/30(水)01:20:21
>>1ははやく一人暮らしすればいいのに
72: 2014/07/30(水)01:21:23
これは・・・・たまらんな
73: 2014/07/30(水)01:22:04
うん…こんな家私なら早く逃げたいけどな、1には何か理由があるのかもね
75: 2014/07/30(水)01:25:15
「……あとにする。先にキミが入れ」
「お風呂に入るでしょ?」
背筋が薄ら寒くなるのを感じた。
この女はついに父にまで、自身のもつ狂気を向けたのだ。
「俺はやることがあるんだ。 あとから入るからお前とユイが先に入れ」
父の声は明らかに苛立っている。
「お風呂に入るでしょ?」 何度目かになるカホのセリフ。カホの顔には、あの微笑みが張りついていた。
「お風呂に入るでしょ?」
父がカホを振り返る。
「……わかった。入るよ」
「うん。一番風呂で寒いかもしれないけど我慢してね。 あ、お父さんが出たら次はユイちゃんが入ってね」
私はだまってうなずいて料理を口にする。口にふくんだカホの料理は冷めきっていた。
77: 2014/07/30(水)01:26:27
これはオチが気になる
79: 2014/07/30(水)01:29:59
不気味だな
81: 2014/07/30(水)01:32:09
カホのせいで家の中の空気が、変化していくのを私は感じとっていた。重くのしかかるような空気が、家全体を覆っていく感覚には覚えがある。
この家が私にとって、心安らぐ場所だったのはいつのころだったのだろう。
ここのところ、まどろみの中で『母』をさがす夢を見る。この日もずっと『母』をさがしていた。だけどなにか大きな音がして、唐突に現実に引きずり戻された。
からだを起こして、机のうえの目覚まし時計を確認する。時刻は夜中の二時だった。
音はリビングから聞こえた。
私がリビングへと駆けつけると、父とカホがいた。
83: 2014/07/30(水)01:36:46
カホは床に座りこんで頬をおさえていた。「な、なにがあったの?」と私の問にはふたりとも答えなかった。
「お前が悪いんだ……」
父の顔は怒りに強張っていたけど、同時に紙のように白かった。 やせ細って骨ばった父の拳には赤い血がこびりついている。 呆然とする私を父が横切ってリビングから出ていく。
「どこへ行くの!?」
私は父を問いただすために追おうとして、結局やめる。
カホの様子を見ることを優先した。
84: 2014/07/30(水)01:37:32
とうとう、鉄拳制裁か・・
86: 2014/07/30(水)01:41:57
「大丈夫?」
唇の端が切れたのか、出血していた。父がカホに手をあげたことに、私はなぜかショックを受けていた。
「言いすぎちゃったのかな。怒らせちゃったみたい」
カホがおかしそうに笑った。
笑うと唇が痛むのか、その微笑はいつもとちがっていた。
「またなにか言ったの?」
「少し注意しただけだよ、わたしは」
「それだけで手をあげたって言うの、あの人は?」
「そういう人でしょ、あの人は。あなただってそんなことぐらい、わかってるくせに」
私は肩をかして、ソファにカホを横たわらせた。
88: 2014/07/30(水)01:46:34
「前にも聞いたけどさ。なんであんな人と結婚したの?」
カホが答えようとしないので、私はそのまま続ける。
「あの人はクズだよ。お母さんだってあの人のせいで……」
「そうだね」
カホは自分のお腹に手をおいた。
「あの人は奥さんがいても、平気で不倫とかしちゃう人だからね」
母の生前、父が不倫をしていたことを私は知っていた。そして、その不倫相手の一人が目の前の女なのだ。
「わかってたんでしょ? 」私は言った。
「アイツが人間としてどうしようもないクズで、最低なヤツだって」
89: 2014/07/30(水)01:47:47
なんか
ラストがわかった気がした
90: 2014/07/30(水)01:50:55
「ええ、もちろん」 とまたカホは笑う。
「じゃあ、どうして!?」 と私は思わず声をあらげた。
「幸せになるためよ」
カホ自分の腹部へと視線を落とし、そのまま自身の手を腹部へともっていく。
「どんなことをしてでも、なにをしてでも」カホの声が冷たくひびく。
「わたしはわたしの幸せを手に入れるの」
「どんなことをしても……?」
「ええ、どんなことをしても」
幸せになる。
カホが自分に言い聞かせるように、もう一度言う。その言葉はしばらく私の鼓膜にこびりついて、はなれなかった。
91: 2014/07/30(水)01:53:52
ごくり
92: 2014/07/30(水)01:54:56
「……とまあ、だいたいこんな感じなわけ」
私は話すのをやめて、カクテルを思いっきりあおった。
「先輩、飲み過ぎじゃないですか?」
後輩の声がぼんやりとしか聞こえなかった。この時の私は、たぶん酔っていたのだろう。
「それで? そのあとはいったいどうなったんですか?」
「お父さん? 死んだよ」
後輩の顔がかたまる。
予想通りのリアクションだった。
93: 2014/07/30(水)01:54:58
使わないコンセントはぬいて。そう言ったよね?
95: 2014/07/30(水)01:55:57
>>93
やめろ
98: 2014/07/30(水)02:00:02
>>93
使えないち○こも抜いて。そう言ったよね?
99: 2014/07/30(水)02:00:33
>>98
言ってない
97: 2014/07/30(水)01:59:24
「正確に言うと、殺されたんだよ」私は続ける。
「さっきも話したけど。父がカホに手をあげて、一週間ぐらいしてからね」
「そうだったんですか」
後輩がしぼりだすように相槌をうつ。
「てっきりさ、殺したと思ったんだ」
「え?」
アルコールのせいで、言葉がチグハグになってしまう。私は言い直した。
「だから、カホがあの人を殺したと思ったの」
100: 2014/07/30(水)02:03:48
「……なんでですか?」
後輩の声が低くなった気がした。私は構わずに言葉を続ける。
「いや、単なる勘。だって、ありそうな話じゃない?暴力ふるわれた女が、それをきっかけに男を殺そうとするって。ありそうじゃん、サスペンスとかで」
「でも、その人は先輩のお父さんを殺してないんでしょ?」
「おそらくね」と私はためいきをつく。
「父が殺された時間帯、あの女には完アリバイがあったみたい」
そう。私の予想は外れた。
捜査の結果では、カホには完全なアリバイがあったらしい。
101: 2014/07/30(水)02:05:35
他人を洗脳するくらいできそうだな…ストッパー効かないくらい、人だって殺められるくらい追い詰められそう
102: 2014/07/30(水)02:07:34
「犯人は捕まったんですか?」
「全然。いまだに捜査中だね。 もう半年近く前の話なんだよね」
「本当に警察ってば捜査してんのかな」と私が言うと、後輩は苦笑いした。
「犯人、早く見つかるといいですね……」
「そうだね」
私の返事は自分でも笑ってしまうほどにぞんざいだった。
「きみも気をつけて。世の中本当に物騒なんだから」
「そうっすね。オレも全身殴打で死亡とかいやですからね」
「はは、それは私もだよ」
違和感が脳のどこかで引っかかる。
でも流し込んだアルコールのせいで、
その違和感は、あっという間に喉のおくに消え失せた。
104: 2014/07/30(水)02:08:53
後輩ェ…………
106: 2014/07/30(水)02:09:54
後輩が犯人なのは分かったけど
時系列が気になるわー
107: 2014/07/30(水)02:10:28
「とりあえず、店出ましょうか」
後輩に会計をまかせて、私は店を出た。
遅れて後輩も出てくる。
夜風が肌を突き刺してくると、不意に不安が頭をもたげた。
「今日はありがとね。私の話、聞いてくれて」
「いや、少しでも先輩の力になれたならよかったですよ」
鼻のおくがツンとした。
アルコールのせいなのか、私は情緒不安定になっているのかもしれない。
「ここんとこさ、私の生活めちゃくちゃでね」
「……先輩」
気づくと視界が滲んで、目の前の後輩の輪郭さえ曖昧になっていた。
109: 2014/07/30(水)02:11:05
このあと殺されるんだな>>1が
111: 2014/07/30(水)02:13:42
「もう、どうしたらいいのかわかんないよ……」
知らず知らずのうちにあふれてきた涙は、なかなか止まりそうになかった。そんな私の手を、後輩は両手で包んでくれた。
「大丈夫ですよ、先輩」
後輩の手は暖かかった。
私は彼を見あげた。
後輩はさわやかに私にむかって笑ってみせると、
「先輩、大丈夫ですよ。俺がついてますよ」
その言葉がどういう意味なのかを聞き返そうとする前に、後輩の手が離れた。彼は照れくさそうに笑っていた。
「じゃあまた今度会いましょう」
「……うん」
後輩とわかれて帰途につく。
私は彼が握ってくれた手に自分の手を重ねた。
彼の体温が逃げないように。
112: 2014/07/30(水)02:14:46
あれ?やらんのか?
114: 2014/07/30(水)02:18:19
家に帰ると、カホがいつもどおりに私をむかえた。父が死んでからもその笑顔は相変わらずだった。
「おかえり。今日は遅かったんだね」
「うん、まあね」
「なんだか気分よさそうだね。いいことでもあった?」
「べつに」
「この前、結婚について少し触れたけど、まだ細かいことは話してないでしょ」
そういえば、父が死んでからもうすぐ半年、つまり六ヶ月が経過しようとしていた。
「今度、私のその結婚相手の人に家に来てもらおうと思うの」
「そう、どうぞ勝手に」
115: 2014/07/30(水)02:18:52
この女のことなど、どうでもよかった。
玄関に腰かけブーツを脱ぐ。
足はすっかりむくんでしまっていたが、気分は悪くはなかった。
「それで結婚相手の人なんだけどね」
――って言うの。
「……え?」
私は反射的に背後にいるカホを振り返っていた。カホの右手の薬指には、指輪が光っていた。その手は彼女の腹部に置かれていた。
116: 2014/07/30(水)02:19:40
「今なんて言った?」
「だから、結婚する人の名前なんだけど」
カホがもう一度結婚相手の名前を言う、とても嬉しそうに。
カホが言った結婚相手の名前。
それは、私がさっきまで一緒に飲んでいた後輩のものだった。
117: 2014/07/30(水)02:20:24
レミ「」
118: 2014/07/30(水)02:20:37
ひええ…
119: 2014/07/30(水)02:20:42
読めてた
120: 2014/07/30(水)02:20:44
ソロコンに近いものを感じる
121: 2014/07/30(水)02:21:03
右手じゃなくて左手じゃないか?
122: 2014/07/30(水)02:21:06
予想外wwwwwwww
123: 2014/07/30(水)02:21:39
フィクションだよね?
125: 2014/07/30(水)02:23:02
つか旦那亡くして半年で次ってのもなwww
135: 2014/07/30(水)02:26:48
>>125最初からここまでが計画だということちゃうの?
126: 2014/07/30(水)02:23:19
ここまで付き合ってくれてありがとう。
こうしてキーボードを打つことでだいぶ冷静になってきた。
だけどもうなにも考えたくない。
考えたくないの。
明日も早いしもう寝るね、おやすみ。
129: 2014/07/30(水)02:24:33
>>126ぞっとした
とにかく乙
134: 2014/07/30(水)02:25:14
>>126
みんなに途中でネタバレされたとしてもノンフィクションのように終わらせるのは違うでしょ?
142: 2014/07/30(水)02:49:38
>>134
殺人エンドと思った人が大半じゃん
143: 2014/07/30(水)03:02:54
>>142の書き込みの ノンフェクションエンドってのが 良くないでしょって事
133: 2014/07/30(水)02:25:00
家が乗っ取られる
138: 2014/07/30(水)02:30:43
あれ?親父は結婚前に前任者をヤッたわけではないのかな?
139: 2014/07/30(水)02:31:00
殺されオチかと思ったら両親両方年下ファミリーエンドかよ
予想外だった
久々にゾッとできたわ
141: 2014/07/30(水)02:40:45
つまり家だけ取られたってことか
144: 2014/07/30(水)03:04:13
読み終わった俺が一言
色んな意味で恐い
145: 2014/07/30(水)03:12:08
ノンフィクションで始まってんだからノンフィクションで終わるのが普通じゃないの?(´;ω;`)
147: 2014/07/30(水)03:27:24
>>145
釣り職人は「釣り宣言」
SS職人は「フィクション宣言」
をしっかり行ってこその大団円
148: 2014/07/30(水)03:38:04
勿論そんな事は無いし今までの2ちゃんを知ってれば分かるよね(^ ^)
149: 2014/07/30(水)04:41:56
父さんの再婚相手な、大学生なんだよ
これを告げられたのが半年前
父が死んだのも半年前
それでも俺はこのスレが好き